日光にリッツ・カールトン 海外セレブ誘う秘策は「至極の体験」

ザ・リッツ・カールトン日光は、中禅寺湖畔に面した日光国立公園内に開業する

日光東照宮をはじめ、世界遺産の2社1寺を擁する栃木県日光市に2020年5月22日、高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン日光」が開業する。リッツ初の露天風呂付き大浴場を備え、最高ランクのスイートルームはなんと277平方メートル。究極のくつろぎ空間と至極の体験を売りに、海外の富裕層の心をつかめるか。

 大阪、東京、沖縄、京都に続く国内5カ所目のリッツは、日光だった。標高約1200メートル。風光明媚(めいび)な中禅寺湖に面し、雄大な男体山を望む日光国立公園内に、高級ホテルの代名詞「ザ・リッツ・カールトン」が進出する。

場所は、1894年から2016年1月まで120年余り営業した日光レークサイドホテル(前身はレーキサイドホテル)の跡地。このホテルを運営していた東武鉄道とマリオット・インターナショナルが手を組み、栃木県内初の国際ブランドのラグジュアリーホテルに姿を変える。

ひさしのある石造りのファサードをくぐると、高い天井のアライバルロビーが広がる。その奥のラウンジエリアには約20点のアートが点在し、書斎のような空間「ザ・ライブラリー」では、暖炉を前に静かに読書を楽しめる。その隣には、世界のウィスキーと自家製カクテルが味わえる「ザ・バー」。時間が止まったかのような、ゆったりとしたときを過ごせる。

リッツとして初めてとなる大浴場と露天風呂も併設。乳白色でミネラル分豊富な日光湯元温泉の源泉を引き込み、スパや24時間営業のフィットネススタジオも備える。

コンセプトは「奥日光の自然と調和する邸宅」。メインターゲットは海外の富裕層だ。西洋の外交官らが避暑地として過ごした歴史を踏まえ、メイン棟、レイク棟、マウンテン棟の3棟に和と洋が融合した「和モダン」な全94室を展開する。

圧巻はその広さ。キング、ダブルルーム(計84室)が57平方メートル、スイートルーム「中禅寺湖ビュー・スイート」(計9室)は115平方メートル。1室限定の「ザ・リッツ・カールトン・スイート」に至っては277平方メートルもある。

全客室にプライベートバルコニーと縁側風のラウンジがあり、新緑、紅葉、雪景色と、四季によって移ろう絶景を心行くまで眺められる。室内には、栃木県の伝統工芸鹿沼組子をイメージした引き戸があり、浴衣や草履風のサンダルが備わる。バスタブやネスプレッソのコーヒーマシンも完備した。

最上級の「ザ・リッツ・カールトン・スイート」には、ジムやスパトリートメントルームまであり、シェフが目の前で調理して美食を振る舞う。

鉄板焼きカウンターを備えた本格日本食レストランに加え、中禅寺湖畔にたたずむ「レークハウス」では、野菜、果物、チーズなど日光の恵みを贅沢(ぜいたく)に使った西洋料理を提供する。全館を通して、まさに究極のくつろぎを形にした。

●「本物の日本」が売りになる。リッツ東京との連泊プランも

リッツ日光は東京からクルマや鉄道で約2時間の日光市中心部から、さらにクルマで40分ほどかかる奥日光エリアにある。距離の壁を越え、海外の富裕層をいかにして呼び込むのか。

秘策がある。アクティビティー付きの宿泊プランだ。キーワードは「真の贅沢」だという。「日光には、日本人さえも知らない『本物の日本』が残されている。この地が秘めたネイチャー(自然)、カルチャー(文化)、スピリチュアリティー(精神性)という3つの軸を柱に、ここでしか味わえない特別な体験を届けたい」と、総支配人の細谷真規氏は語る。

 ここにしかない「本物の日本」をパッケージ化し、気軽に体験できるようにすれば、旅の大きな目的になると考えた。具体的には開業と同時に5つのプランをスタートさせる。

例えば、ネイチャーを柱に据えたのが「FOREST BATHING /NATURE CYCLING」(1泊2人5万5000円~、サービス料・消費税・入湯税別、以下同)。手つかずの大自然が残る奥日光を電動マウンテンバイクで疾駆したり、源泉スポットをハイキングしたりとエコツーリズムに親しめる。

カルチャーに触れられるのが「CULTURAL EXPERIENCE」(1泊2人6万3000円~)。世界遺産の1角を担う日光山輪王寺の別院「日光山中禅寺」で護摩法要や写経を体験できる。

スピリチュアリティーをテーマにした「AWAKEN YOUR SPIRITUALITY」(1泊2人6万3000円~)は、世界遺産の日光山輪王寺と日光二荒山神社、約70体の地蔵が並ぶ神秘的な憾満ヶ淵(かんまんがふち)を散策する。日光東照宮では徳川家ゆかりの「将軍着座の間」で特別祈祷を体験し、パワースポットとして知られる滝尾神社の神木・三本杉も巡る。

子連れのファミリーには「RITZ KIDS EVENINGS」(1泊2人6万2000円~)を企画する。地図を頼りに、日光の三猿「見ざる・聞かざる・言わざる」の人形をクイズ形式で探すという宝探しゲームを実施。遊びながら、日光の自然や文化を学べる教育的なプログラムだ。

極め付きは、リッツ東京とリッツ日光に2泊ずつ連泊する「ANCIENT ROADS TO SACRED SITES」(4泊2人26万5000円~)。「ホテルへの移動も旅」(細谷氏)ととらえ、女性探検家イザベラ・バードが明治期に著した「日本奥地紀行」をヒントに東京から東武線に乗り、日光、奥日光へと旅するプランを組み立てた。

「泊まるだけでなく、体験、そして体験後も永遠のギフトとして残る思い出、感動を提供し、『世界の日光』と注目を集めるデスティネーション(目的地)にしたい」。細谷氏はそう力を込めた。

●日光をてこ入れする東武 × 日本を攻めるマリオット

東武鉄道は日光を重点エリアと定め、積極投資を続けている。16年に老舗の金谷ホテルを買収。17年には東武日光線に新型特急「リバティ」を投入し、東武鬼怒川線ではSL「大樹」を半世紀ぶりに復活させた。

リッツ日光の開業に向け、19年には完全子会社のレーキサイドホテルシステムズを設立。20年7月15日には保有地の一つ「日光田母沢旧御用邸」の跡地に、不動産大手のヒューリックと組んで、高級温泉旅館「ふふ 日光」を開業する。

強気の投資の背景には、底堅い観光需要がある。訪日客(インバウンド客)が地方へと足を向けるようになり、世界遺産を擁する日光市の観光客数は18年、1231万6263人と過去最高を更新。この追い風を生かし、「歴史、文化、伝統と自然が共生する世界唯一の国際エコリゾート」(東武鉄道)を目指すという。

一方のマリオット・インターナショナルもまた、日本展開を加速している。

「日本のインバウンド客は19年、3100万人を超えた。12年にはわずか840万人にすぎなかったが、毎年2桁近い成長を続け、東京五輪後も期待できる」と強調するのは、アジア太平洋プレジデントのラジーヴ・メノン氏。

マリオットは世界134カ国に30ブランド7300以上のホテルを展開し、「今なお15時間に1軒という驚異的なスピードでホテルを開業している」(メノン氏)。その拡大戦略の中心を担っているのがアジア太平洋地域であり、なかでもビジネスチャンスが大きいと見るのが日本だ。

東武だけでなく、森トラスト、積水ハウス、JR東日本グループの日本ホテルなどさまざまな事業者と連携し、次々とホテル建設に踏み切っている。「マリオットが日本で運営するホテルの数は現在44。5年以内に100まで増える。ブランド数も5年以内に現在の12から19まで増える」とメノン氏は展望した。

●8つのラグジュアリーブランド

マリオットがラグジュアリーと位置付けるホテルブランドは8つある。

ザ・リッツ・カールトン、JWマリオット、セントレジス、リッツ・カールトン・リザーブ、W、エディション、ラグジュリーコレクション、ブルガリだ。

日本ではこの先、奈良にJWマリオット、東京・虎ノ門と銀座にエディション、北海道ニセコ町にリッツ・カールトン・リザーブ、大阪にW、東京・八重洲にブルガリが開業予定で、23年には世界で唯一、マリオットの全ラグジュアリーブランドが集結する国になる(関連記事「東京・竹芝に高級ホテル JR東×マリオットが挑む水辺の再生」「銀座にマリオット最高級ホテル 「五輪後」にらむ森トラスト」)。

「ラグジュアリーホテルにとって重要なのは、いかに特別な経験を提供できるか。ラグジュアリートラベラーはさまざまな刺激を求め、これまで以上に意義深い出合いを求めている」(アジア太平洋ラグジュアリー部門のエリアバイスプレジデント、ヴィクター・クラヴェル氏)。

日光は、この条件を満たす旅先として絶好の場所だった。日光東照宮など世界遺産の2社1寺や大自然が広がり、しかも軽井沢や箱根と比べると、高級宿泊施設は少ない。十分な宿泊需要が見込めると判断した。

リッツが日本に初めて誕生したのは1997年大阪だった。あれから20年余り。日光に続き、23年春には福岡市の天神地区にも進出する。

リッツ日光が開業する5月22日は、東武グループが運営を担う東京スカイツリーの開業記念日でもある。スカイツリーのように千客万来のランドマークに育てられるか。マリオットにとっても、後に続くリッツ、他の高級ホテル展開の前哨戦になる。

 

引用元:日経クロストレンド
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200303-55777733-nkctrend-bus_all&p=2

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