ひな人形を飾るのは何歳まで?
3月3日は、桃の節句(ひな祭り)です。「3月3日を過ぎると、早くひな人形を片付けなければ婚期が遅くなる」という言い伝えは有名ですが、「成長しても何歳までひな人形は飾るものなのか」という問いに、はっきりと答えられる人は少ないのではないでしょうか。ひな人形は女性が何歳になるまで飾るものなのか、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
Q.そもそも、ひな人形を飾ることには、どのような意味があるのでしょうか。
齊木さん「3月3日のひな祭りは、女の子の健やかな成長と幸せを祈願するためのお祭りです。ひな人形のめびな(おひなさま)は、女の子の災厄を身代わりに受けてもらう役割と、めびなのようなすてきな女性に育ち、幸せな人生を歩んでほしいという願いが込められています。
そもそも、ひな祭りは中国から日本に伝わったと言われています。そして、平安時代の宮中では、穢(けが)れを人形に移して海や川に流し、厄をはらっていました。この行事と宮中の子女の間で流行していた、おままごと遊びのような『雛遊び(ひいなあそび/ひなあそび)』が合わさって、『流し雛(ながしびな)』が行われるようになりました。
この行事は長らく行われていましたが時代とともに、流し雛に使用する人形が技術の進化によって立派になり、川に流すのではなく家に飾るようになりました。やがて、これがひな人形となり、女の子の健やかな成長と幸せを願うものとして一般大衆にも広まり、江戸時代に定着したと言われています」
Q.ひな人形は、女性が何歳になるまで飾るものなのでしょうか。中学生や高校生、大学生、社会人になってから飾っても問題ないのでしょうか。
齊木さん「ひな人形には女の子の災厄を引き受ける役目があり、いわば分身であり、守り神のような存在です。何歳になっても、ひな人形を飾り続けることは問題ないとされています。しかし、女の子が成長するにつれて、いつまで飾るべきか悩む家庭も多いようです。そこで、いつまで飾るべきか3つの区切りをご紹介します」
(1)子どもの成長の節目で区切る
例えば、七五三の7歳まで▽小学校や中学校、高校、大学などの卒業まで▽成人を迎えるとき、といった区切りです。
(2)結婚するまでで区切る
ひな人形は宮中の婚礼の様子を表しており、めびなのようにすてきな女性に成長し、良い伴侶に恵まれて幸せな人生を歩めるよう願うもので、結婚も一つの区切りと考えられます。
(3)何歳になっても飾り続ける
ひな人形は分身であり、お守りのような存在なので、一生飾り続けるという考え方もあります。昔は、結婚した娘は嫁ぎ先にひな人形を持参し、『嫁の雛』と称してこれを飾る風習もありました。嫁ぎ先に持っていき、自分で飾ってもいいですし、親が娘のために実家で飾り続けるという方法もあります。
Q.ひな人形を飾らなくなると、処分に困ることがあるそうです。知り合いなどに譲ってもよいのでしょうか。どうしても処分する必要がある場合、ごみとして処分するのではなく、寺社などで供養した方がよいのですか。
齊木さん「ひな人形は女の子の身代わりであり、魂が宿ると言われています。そのため、その子が生きている間は、処分したり譲ったりしない方がよいという考えがあります。しかし近年は、親しい人であれば、女の子が健やかに成長した姿を見て、縁起を担いで譲り受けたい人もいます。『絶対に譲ってはいけない』ということはありません。
気になる場合は、人形供養をしてから譲るのも一つの手段です。人形供養とは、神社やお寺で人形に宿った魂を抜いてもらう供養をすることで、その人形はただの物に返り、使命を終わらせることができます。もらい手がいない場合には、不用品として粗大ごみに出すのは避け、寺社でおたき上げをしてもらうのも一つの手段です。
また、毎年秋に明治神宮(東京都渋谷区)では『人形感謝祭』が行われ、供養をした後に引き取ってくれますし、寄贈されたひな人形を展示するイベントを行っている地域もあります。そうしたイベントに寄贈するほか、福祉団体や施設に寄贈するという方法もあります。
幼稚園、児童養護施設、老人ホーム、介護施設など、飾りたいという施設はいくつかありますので、まずはお住まいの自治体に問い合わせてみましょう」
Q.最近は住環境などの影響で、何段もある本格的なひな人形ではなく、簡易的なひな人形が好まれる傾向があるそうです。伝統文化は、周囲の環境の変化で衰退することも多いですが、ひな人形のように徐々にでも形を変えて伝統文化が継続していくことについて、どのように思われますか。
齊木さん「現代の住まいでは、最も壮麗な『七段飾り』を飾るのは物理的にも難しいように思います。ただ、これまでも伝統文化は時代とともに徐々に形を変えながら伝わっているので、変化していくことは自然のことではないでしょうか。
ただし、形は簡略化しても、本来の目的である『女の子の災厄を引き受ける役目』『めびなのようなすてきな女性に育ち幸せな人生を歩んでほしいという願い』を込めて飾られることは、継承していくべきと思います。
ひな祭りは小さな女の子に限らず、女性の誰もが幸せと健康を祈ることができます。折り紙で作ったひな人形や、お菓子でできているひな人形など、どのようなものでも構いません。ご家庭で伝統行事を生活の中に取り入れて行くことが、日本人として心豊かな人間を形成してくのではないかと思います」
引用元:オトナンサー
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200303-00060531-otonans-life