「神社を知り尽くす人」に聞く福を招く初詣の掟

令和初のお正月。神社マニアの渋谷申博さんに、自分に合った神社の探し方や正しい参拝法など話を伺った

令和初のお正月は、幸多き時代になるようにと、例年以上に初詣に気合いが入る人も多いだろう。

しかし、せっかく人混みをかきわけてお参りして、おみくじを引いても、ご利益を授かる正しい作法を知らなければ、十分に幸を受け取れないかもしれない。

そこでこの新しい時代の節目に、自分に合った神社の探し方と正しい参拝法、おみくじの読み方、そして福を呼ぶ神社との付き合い方を知りたい。

そう考えた筆者は、『日本の神社を知る事典―一生に一度は行ってみたい厳選22社』をはじめとした神社関連の著書を持つ渋谷申博さんに取材を申し込んだ。

神社に行く人は成功するというが実際のところどうなのか?

開運するおみくじの読み方はあるのか?

神社マニアお気に入りの神社はどこなのか?

素人丸出しの質問に、渋谷さんは菩薩のような笑みを浮かべて答えてくれた。

■神社は遊園地。エンターテインメントの世界

黒のタートルネックに革ジャンを着こなし、一見するとクールな印象の渋谷さん。

しかし取材が始まるやいなや、印象は一変。

「この小さな招き猫は、住吉大社で商売発達・家内安全祈願のため、月初めの辰の日にお参りする“初辰まいり”をするといただけるんです。

これを4年続けて48回参拝すれば四十八辰の満願成就となって中猫が、12年続ければ大猫が買えるんですよ」

嬉しそうな表情で、可愛いおみくじやほかの招き猫も取り出して見せてくれた。

小学生の頃に訪れた奈良の東大寺や薬師寺で仏像に目覚め、大学を出た後も仏教関係の出版社に就職した、筋金入りのマニアである渋谷さん。

独立した後も日本の宗教や神社仏閣の仕事専門でやってきた。

そんな渋谷さんが今改めて魅了されているのが、神社だという。

「お寺に比べると神社は仏像もないですし、社殿の中に入れないことも多いので、最初はつまらないと思っていたんです。

でも神社にはその地域の歴史が記憶されています。

狛犬や鳥居の寄進者から信仰圏の広さがわかったり、どこの神社から分霊された鎮守なのか調べると見えてくる史実があって面白い。

だから私は、初めて訪れる町に行くとそこにある神社はすべて訪れて、隅から隅まで見て回るようにしています。写真も撮るので、出張すると神社巡りだけで終わってしまいますね」

興味津々で神社に丁寧に向き合う渋谷さんと、お参りがすんだらさっさと失礼する参拝客とでは、御利益にも差がありそうだ。

「参道の脇や本殿の裏に祠や石碑があったり、池の中にお宮があったりする神社もありますが、その1つひとつにご利益があるんですよ。

だからどれも無視できません。特に見どころが多い庶民信仰の神社は、

土地の人たちの願いごとを何でも叶えてくれる遊園地みたいで楽しい。

神社にはお祭りなどの行事目当てで行く人も多いので、一種のエンターテインメントの世界でもあるんですよね」

神社庁に登録されている神社は8万以上。寺院も7万7000以上あり、日本の神社仏閣はコンビニよりも多い。

渋谷さんが今まで訪れたのは、神社609社、寺院604カ寺に及ぶ。その中でとくに、「行ってよかった」と思える印象深い神社はどこだろうか。

 真っ先に挙げてくれたのは、福岡県にある宗像大社だ。

「航路や陸路などの“道の神様”として崇敬されてきたご祭神の宗像三女神が、沖津宮(おきつぐう)、中津宮(なかつぐう)、辺津宮 (へつぐう)の三カ所にお祀りされている神社です。

島全体がご神体で女人禁制の沖ノ島は、原則、神職しか上陸が許されません。そこで、その手前の大島に鎮座する中津宮へお参りしました。

フェリーの屋根にまで波しぶきがかかる船旅で、日本神話の舞台でもある神社ですので印象深いですね」

もっとも大きい辺津宮崎は陸地の田島にあり、交通安全のご神徳でも有名なので、国内外の出張が多い人にはおすすめだという。

次に挙げてくれたのは、京都にある愛宕神社。全国の愛宕神社の総本社である。

「こちらの祭神は防火の神様です。嵐山からバスに乗って20分ほどのところから山を登っていくのですが、登りと下り合わせて往復5時間かかります。

とにかくひたすら歩くしか参拝方法がない神社ですが、神職は毎日登るそうです。

たまに遭難者も出るそうですが、それでも参拝者が多い。

愛宕神社は上方落語(東京でもやりますが)の「愛宕山」の舞台になったところで、かつては参道には茶店や人家、学校などもありました。

今は跡だけが残っています。そういうところも興味深かったですね」

 では、渋谷さんが何度も参拝している、お気に入りの神社はどこなのか。

 「東京の西多摩郡にある阿豆佐味天(あずさみてん)神社です。

9世紀に創建された都内でも有数の古社で、猫返しの神社として有名な立川にある同名の神社は、ここの分社です。

私がとくに好きなのは参道の桜並木。お花見の時期はとてもきれいですが、あまり人が来ないんです。

それと、言葉では説明しづらいですけど、ずっといても飽きないほどすごく居心地がいいんです」

■行列にイライラする初詣なら行かないほうがマシ

 居心地のよさを感じるということは、やはり神様との相性も関係しているのだろうか。

「私はあまりそういうことは気にしませんが、琉球王国最高の聖地である沖縄の斎場御嶽(せーふぁうたき)に行ったときは、嫌われてるなぁと感じましたね。

道順を入念に調べて行って、バスの出発時間にも間に合ったはずなのに、バス停に着いたらバスが出ていってしまった後だったり、すごく拒否されていると感じました。

でも、だんだんと受け入れてくれるのも感じました。どんな神様でもお参りしたいと思うなら、受け入れてくださいという姿勢で入れば問題ないとは思います」

 人出の多い神社に初詣に行く場合、寒空の下で長時間並ばなければいけないこともある。それでもイライラせずに謙虚な気持ちで待ち続けることが大事ということなのだろう。

 「でも人間には煩悩がありますからね(笑)。何時間も並んでまでお参りするのがつらいと思うなら、自分が住んでいる土地を守っている氏神様に参拝することをおすすめします。

それとあわせて、自分の願いごとを叶えてくれそうなご祭神がいる神社に、気持ちよくお参りするほうがいい。

いちばん大事なのはご祭神で、あとは自分が気持ちいいと感じるかどうか。

初詣する神社のご祭神を知らない人も多いので、まずはそこを調べてほしいですね」

 参拝法にもマナーがあり、守らないと神様が機嫌を悪くする、と渋谷さんは指摘する。

 「鳥居は必ずくぐる。参道の中央は神様の通り道なので両脇を歩く。手水舎(ちょうずや)で手口を洗って清めるときは、直接、柄杓に口をつけない。

二拝二拍手一拝のときは、帽子やサングラスをとる。たとえお正月でも、酔っ払ってお参りするのはよくありません」

■「吉凶」を見るより大事なおみくじの読み方

参拝客が多い神社の初詣に行くと、お賽銭を人の頭越しに投げ入れている人がいるが、それも御法度なのだ。

 「神社は神様が住んでいる宮殿ですから、鳥居をくぐったところから神様に見られているわけです。わかりやすく言えば天皇陛下が前に座って見ているようなものですから、その真ん前でお賽銭を投げ入れるなんて普通しないと思うんですね。そういう状況を頭にイメージしてもらえば、失礼なことはできないと思います」

 家族やカップルがおみくじを引いて一喜一憂しているのも、初詣ならではの風景だ。しかし、渋谷さんの新刊『成功する人は、おみくじのウラを読んでいる!』によると、読むべきところは大吉や凶などの「吉凶」や運勢ではないという。

 「おみくじは、本来、引いた人の願いごとに対する神様の意思を伺う方法として生まれたもので、古くは将軍の後継者選びや政治を判断として用いられていました。ですからいちばん重要なところは、和歌や漢詩で示されている神様のお告げ文です。その下に書かれている吉凶や、仕事運、金運、恋愛運といった運勢全般についての説明は、解釈の一例なので参考にしかなりません。

 大切なのは、自分の状況や願いごとをよく考えて、自分自身で和歌や漢詩の意味を読み取ることです。お告げ文の解釈の仕方は人の数だけありますから、できるだけ正しく読み取るためには、自分が神様に聞きたいことを決めてからくじを引きましょう。質問がわからなければ、神様も何を教えていいかわかりませんからね」

 今までおみくじの吉凶や運勢ばかり気にしていた筆者。どうりで運が向いてこないわけである。

 よく迷うのだが、引いたおみくじは持って帰るのがいいのか、それとも境内にあるおみくじ結び所に結んでいくべきなのだろうか。

「おみくじは神様からのいただきものですから、どちらでも自由です。結果がよければ、そのご縁を結ぶために結んで帰るのもいいですし、逆に結果が悪くて自分で持っていたくないなら、結ぶのもありです」

それよりも気をつけてほしいことがある、という渋谷さん。

 「神様の分身である御札やお守りなどの授与物の扱い方です。御札は家の中の南向きか東向きの清潔で高い場所にお祀りしますが、御札の種類によって異なることもあるので、くわしくは神職や巫女さんに確認してください」

 「お守りも粗末にせず、普段、よく持ち歩くバッグなどに入れておきます。お守りを何個も持っていると神様がケンカするという人がいますが、そんなことはありません。お守りは願いごとの数だけ持っていてもいいんです。また神様は、1年のサイクルが更新されるごとに人の生命が生まれ変わっていくという考え方なので、御札やお守りは毎年新しいものをいただくのが基本です」

■仕事運、商売繁盛、勝負祈願におすすめの神社はココだ

 少しは神社のことがわかってきた気がする。最後に、仕事運や金運を上げたいビジネスパーソンに向けて、東京のご利益神社をいくつか紹介してもらった。

ビジネスの成功を祈願するなら・・・
出世の階段がある愛宕神社(港区)、お狸さま(お田抜き)の柳森神社(千代田区)。商売繁盛は、金刀比羅宮(港区)、花園神社(新宿区)、三囲(みめぐり)神社(墨田区)
就職や出世を願う人は・・・

浅草寺の境内にある被官稲荷神社(台東区)。勝利・財福のご利益があるのは徳大寺(台東区)
財福は…
穴守稲荷神社(大田区)
勝負ごとや宝くじで当てたい人は……
皆中(みなあたる)稲荷神社(新宿区)
ところで、神社巡りが日課の渋谷さんだが、神社に行く回数が多いほど成功するという実感はあるのだろうか?

 「ないですね。世の中そんなに甘くないですよ。成功するなら、神社巡りだけしていればいいことになりますから。ただ、努力した上で神社詣でをすれば成功する可能性は高まるでしょうね。私の場合、その努力の部分が欠けてますし。

 日々神社や神様に向き合っていると考え方が前向きになります。悪いことがあっても、いつもお参りしているからこの程度で済んだと、柔軟に考えることもできます。

 でもあまり過剰に神様に期待すると、願いが叶わなかったときに裏切られたような気分になるんですよね。だから私は、基本的にお願いごとはしないことにしています。行く神社の数も多いので、そんなにたくさんお願いすることもありませんから」

そう話す渋谷さんの当面の目標は、日本百観音巡礼なのだとか。

「西国三十三所、坂東三十三箇所、秩父三十四箇所の100観音巡りをして御朱印を集め始めました。今まで行ったことがあるところがほとんどなのですが、またイチからまわって御朱印をもらうと決めた途端に、仕事でほかの寺社の取材が続いたりして、なかなか行けないのがもどかしいんですけどね……」

取材の最後に、「今いちばんハマっているのはこれなんです」と御札ファイルを取り出して見せてくれた渋谷さん。

終始その楽しそうな笑顔を拝顔しながら、福をわけていただいた気分になったひとときだった。

 

引用元:東洋経済オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200101-00321798-toyo-soci