コロナ禍で創建以来の閉堂も 寺社を困らせない祈祷もある

祇園祭の山鉾巡行

 世界的に蔓延してしまった新型コロナウイルス禍のせいで、ついには祇園祭の山鉾巡行までもが中止されるとの報を聞いて、この状態では仕方がないと思う半面、やはり落胆で胸が痛む。何しろ祇園祭というのは、全国に疫病が流行していたことから、貞観11(869)年に66本の鉾を立て悪疫退散を願い始められたものであるのだから。もちろん貞観時代は、富士山が爆発し、播磨地震や貞観地震(東日本大震災と近い三陸沖が震源地)も発生、国中が飢饉に見舞われていたので、悪疫だけでなく災いすべてに対する“祓い”を願ってのことであったのだろう。

●疫病よけの神さまは日本全国に鎮座する

祇園祭に代表されるように、日本には古来、各地に疫病退散を神仏に祈る風習が残されている。科学的な知識などがない時代に日本人は清流を保つために神仏に守護を願って祠を築き、村々へ入る街道に神仏を祭って疫病が流行るとその前の道を閉じたりもした。神仏の力を借りるためならばと反発するものも少なかったようだ。

一方で、神は災いをもたらすものでもあり怒りを買えば害をもたらすものとも考えられていた。古事記や日本書紀には、崇神天皇の時代、大物主が天変地異や疫病の流行を起こしたため、三輪山へ祭り祈りをささげたところ疫病がおさまったとの記述が残っている。大物主とは大国主の別名ともされているため(詳しくはもっと複雑な説明があるが)、オオクニヌシを祭る神社は厄疫払いに御利益がある社といわれている。代表的な神社は出雲大社であるが、地主神社(京都)や神田明神、大国魂神社などにも祭られている。オオクニヌシは別名が多いので、実はかなりの社に鎮座している。

●スサノオが静まれば災いは無くなる?

疫病払いの代表といえば、やはりなんと言っても(祇園祭を催行する)八坂神社の祭神・スサノオであろう。スサノオとは伊勢神宮の祭神・天照大御神の弟神であり、上記オオクニヌシの父神(あるいは先祖)にあたる神さまである。荒ぶる神としても知られ、しまいには姉・アマテラスを天岩戸へ篭らせてしまうほどに泣き暴れて困らせるのである。

この伝説から人間は、疫病や災害はスサノオが暴れることで起こるのだと考えたのだろう。病気や天変地異が起こるたびに、スサノオが治るようにとお堂を建て供物を捧げ祈ったのである。スサノオを祭る神社は日本全国にある。

また、スサノオもオオクニヌシ同様、多くの別名を持っている。八坂神社は明治元年に改名したが、それまでは祇園社と言った。これは牛頭天王(祇園精舎の守護神)を祭る社であったためで、御霊を鎮める神とされていたのである。つまり牛頭天王とスサノオは同一視されているということだ。

●多彩な顔を持つスサノオの姿

牛頭天王は仏教の神であるし、また別名をいくつも持つ。疫病よけの「茅の輪」の逸話は、武塔天神の“蘇民将来”話に由来することは以前この場で紹介したが、この民間信仰が牛頭天王ひいてはスサノオにつながっている。また、このような疫病退散のイメージからだろうか、スサノオは薬師如来の化身ともされている。

スサノオを祭る有名神社は全国各地に広がっていて、オオクニヌシに比べ、社名から主祭神がスサノオであることが分かりやすい。

素盞嗚神社といったそのものの名前を冠していることもあるし、「天王」あるいは「祇園」「八坂」と称していることも多い。関東で特有の「氷川神社」、または「八雲」「津島」「須賀」といった社名もある。いずれもスサノオの伝説から来ている名前で、荒ぶる神という割には日本人から愛されてきた証拠でもあるのだろう。

●神仏混交の時代に両者混じりあい

スサノオの本地仏である薬師如来は、仏教が日本へ伝わった初期から信仰されていたようだ。「薬師」とは医者を指す言葉で、薬師如来は手に薬瓶を持っている姿がほとんどである。このためか古くから残るお寺には薬師如来が多く祭られている。薬師寺をはじめ、為政者たちは病気治癒の祈願のため薬師如来を祭るお寺を建立している。極楽往生を願うために建立された大寺の多くにも薬師堂などが設けられ、病気治癒という現世利益を願う薬師如来が祭られてきたのである。

残念ながら、江戸時代以降に発展してきた東京近郊には歴史ある薬師如来を祭るお寺が見当たらないのだが、関西には延暦寺を代表とする密教寺院の本尊を薬師如来が務めている。

現在広まっているコロナ禍のせいで、多くの寺社のお社やお堂の扉が閉められてしまった。創建以来の閉堂となるところもあるくらいで、それほど人の集中を危惧しているということだろう。以前、あるお寺のお坊さまが「当寺に赴かなくともご自宅から祈ることでも願いは届きます」とおっしゃられていた。本当に祈願が目的であるならば、人禍で寺社を困らせることもないだろう。幸い祇園祭で中止されるのは山鉾巡行だけと聞く。なんとか人の集中が起こることなく、スサノオの神さまに鎮まってもらえる祈りをささげていただきたいものである。切にそう願っている。

 

引用元:AERA dot.
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200422-00000080-sasahi-life

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