寺宝の運慶仏を通じ、多くの人に仏教の良さを伝えたいという土川憲弥・副住職

全国各地で「寺院消滅」の危機が叫ばれる中、横須賀市芦名の浄土宗・浄楽寺(土川妙真住職)が寺宝の「運慶仏」を守り、仏教文化を未来に伝えようと家族一丸の挑戦を続けている。

リーダー役は「金髪にピアス」の飲食店経営者から転身した副住職の土川憲弥(けんみ)さん(34)。

ほのかな明かり中で運慶仏と対面する「暗闇参り」など斬新なアイデアを打ち出し、参詣者らをうならせている。

闇に目が慣れてくると、阿弥陀(あみだ)三尊像のうち、左右の観音、勢至両菩薩(ぼさつ)の端正な姿が浮かんできた。

中尊の阿弥陀如来座像は台座の下方が金色に輝くものの、分厚い御体は薄墨のようなシルエットで、表情がつかめない。

逃げられないような威圧感を覚える。「阿弥陀様のお顔の表情は、見る人の心を反映するようです」。

取材用に「暗闇参り」を再現してくれた憲弥さんの声が、閉ざされた収蔵庫の壁や天井から響いてきた。

浄楽寺は浄土宗大本山・光明寺(鎌倉)の末寺だ。風光明媚(めいび)なエリアにあり、見過ごしてしまいそうな小さな寺だが、日本を代表する仏師・運慶の真作5体を安置している。

阿弥陀三尊像と毘沙門天像、不動明王像の5体で、いずれも国の重要文化財だ。

憲弥さんは宮城県出身。2009年に逗子海岸で海の家を経営していた際に、妙真さんの長女智子さん(34)と知り合った。

当時、智子さんの家族は、父で先代住職の浄信さんが07年に亡くなり、母と4姉妹の女所帯だった。

男手が必要だろうと、憲弥さんは寺の手伝いをするようになった。

飲食店経営は楽しかったが、ふとしたすれ違いで人間関係に悩むこともあった。「皆が幸せになれるような仕事がしたい」。

ずっと抱いてきた自分の心と向き合った時、「仏教かもしれない」と思い始めた。

智子さんとの結婚を願い出る際、妙真さんに「仏教を勉強したい」と頼み込んだ。

亡夫の志を継ごうと、妙真さんも僧侶を目指して修行を始めたところだった。

憲弥さんは京都・知恩寺などで修行を重ね、僧籍を取得した。13年冬のことだった。

副住職となって地方寺院が直面する厳しい現実を知った。「いまのお寺は、いわば土着依存の会員制ビジネスモデル。

檀家(だんか)が減ればたちまち立ち行かなくなる。お墓を作らなければ会員になれないから、ハードルも高い」。

現状を打ち破る方策として、まず、着手したのは収蔵庫に眠る運慶仏をより多くの人に見てもらうことだった。

「横須賀に運慶の真作が5体もあることは大半の人が知らない。これを知ってもらおう」

東京国立博物館で17年秋に開かれた特別展「運慶」への参加を決断した。

寺の世話人らは消極的だったが「寺宝を守るため、免震装置を備える必要がある。

運慶展を契機にしたクラウドファンディングでそれが可能になる」と説得した。

反響は大きく、観光バスが止まるようになった。しかし、目的は観光地になることではない。

鎌倉幕府の初代侍所別当(長官)で、運慶仏を勧請した和田義盛から続く当地の仏教文化をより多くの人に伝えることだ。

現在、温めているのは地域や国を超えて、檀家に準じたサービスが受けられる「プチ檀徒(だんと)」構想だ。

ネットを活用して募り、運慶仏を守る活動に参加してもらい、説教などお寺のサービスを提供する仕組みだ。

「かつて、仏教は最新の科学であり、文化だった。最新の技術も取り入れ、20年、30年先を見据えたお勤めをしたい」。憲弥さんはそう考えている。

浄楽寺では1~3日、運慶仏の特別開帳を開催。拝観料は通常の半額の200円。

「暗闇参り」は事前予約制で、特別開帳期間はお休み。

詳しくは同寺ホームページまたは046・856・8622。

 

引用元:毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200301-00000032-mai-soci