城巡りで新風?「御城印」が密かな人気の理由

「城を巡る人」が増えている。例えば、世界遺産である姫路城の2018(平成30)年度の入城者数は158万9765人。
前年度から12.9%減とはいえ、2005(平成17)年度の77万8458人と比較すれば2倍以上だ。
全国的に見ても、観光地化した城に関しては同様だ。
ここ数年は増加のピークは超えた感があるが、それでも10年前と比較すれば、大幅な増加は間違いない。

以前は中高年男性が多くを占めていた登城者の年齢層も、近年はかなり幅が広がった。週末ともなれば、家族連れで賑わっている。
限られたファンだけが訪れていたお城は、今や「テーマパーク化」したと言っていいだろう。

■火付け役は「スタンプラリー」から

城巡り人気の火付け役となったのは、2007(平成19)年に誕生した「日本100名城選定記念スタンプラリー」だ。
公益財団法人・日本城郭協会による「日本100名城」の選定を受けて開始された。

各城に設置されたオリジナルスタンプを専用スタンプ帳に押し、100城分をそろえて申請すれば「登城達成者」として認定される仕組みだ。
スタンプ帳つきの公式ガイドブックの売り上げは、累計で63万部超、日本100名城の登城達成者も、3205人に及ぶ。
なお、平成29年には日本100名城に続く「続日本100名城」が選定され、翌年4月6日から開始されたスタンプラリーではすでに271人が登城達成している。

専門家に選ばれた名城を訪れ、限定スタンプを押す瞬間は、何ともいえない達成感がある。
スタンプが増えていくのもたまらない。
歴史をさかのぼれば、平安時代中期に始まった霊場巡礼は、江戸時代には大衆化して大流行した。
日本人にとって、「巡る・集める」は身近でハマりやすい楽しみなのだ。

その証しともいえそうなのが、スマートフォンを使ったアプリ「ニッポン城めぐり」の人気ぶりだ。城ファンのみならず、専門家も楽しむ城好きの必携アプリ(位置ゲーム)で、GPS位置情報を使って全国3000の城を巡る。
ユーザー数は、なんと約20万。

運営するユーエム・サクシード株式会社によれば、2010年のサービス開始当初から継続して楽しんでいるユーザーは数万人おり、サービス開始から9年経った現在も、ユーザー数はコンスタントに増加しているという。

さて、「城巡りの楽しさをさらに増す新たな仕組み」として、新たに注目を集めているのが「御城印」(ごじょういん)だ。
各城の売店などで購入できる「来城記念証」のことで、葉書ほどの小さな用紙に、城名などの揮毫、城主の家紋などがデザインされている。
寺院参詣の証書「御朱印」と形状は似ているが、御城印には宗教的な意味はない。手書きの御朱印とは異なり、書き置き式の用紙を購入する。

「昨年末までは50種類もありませんでしたが、今年になってから一気に増え、すでに100種類を超えています」と、今夏発売された『はじめての御城印ガイド』の担当者、株式会社学研プラスの早川聡子さんは言う。
9月初旬で全国に出回っている御城印は少なくとも130種類以上にのぼり、増え続けている。

■御城印が増えている「3つの要因」とは?

では、なぜ御城印はこれほど増えているのか。要因は大きく3つ挙げられよう。
1つは「購入の手軽さ」だ。価格は200円から300円と手頃で、登城記念としても、お土産としても負担にならない。
また、書き置き式のため、通常は長蛇の列に並ばされることもなく、簡単に入手できる。

2つ目は、「収集のしやすさ」。記念コインや置きものなどとは異なり御城印はかさばらず、サイズがほぼ一定のためコレクションもしやすい。

そして3つ目は、「独創性と種類の豊富さ」だ。
御城印コレクターであり発行も手がける若狭国吉城歴史資料館(福井県美浜市)の大野康弘館長は、「小さな1枚の紙に、その城の歴史やイメージが集約されているのが最大の魅力」と語る。

確かに、御城印を眺めるだけで城の歴史を知ることができ、思いをはせられる。
例えば会津若松城(福島県会津若松市)の御城印は、歴代城主の家紋を通して、目まぐるしく変化した城の歴史がわかる。

また、小田原城(神奈川県小田原市)の御城印を見て、記されている「摩利支天」が天守最上階に祭られている小田原城の守護神だと初めて知る人も多いだろう。
月山富田城(島根県安来市)の御城印には落城後に尼子氏再興に奔走した山中鹿之介のシルエットがデザインされ、歴史的舞台に思いを巡らすことができる。

デザインに凝った、個性的な御城印も続々と登場している。彦根城(滋賀県彦根市)の御城印は、城主の「井伊の赤備え」をモチーフにした赤い用紙に、家紋と旗印、通字の「直」が取り入れられている。
彦根の文化と歴史が詰め込まれた、アート作品に近い印象だ。

和紙にこだわった御城印も目立つ。郡上八幡城(岐阜県郡上市)や大垣城(岐阜県大垣市)は美濃和紙、大洲城(愛媛県大洲市)は大州和紙、郡山城(奈良県大和郡山市)は石州和紙を使用。
地域の伝統的な特産品を用いた御城印には価格以上の価値が感じられ、お土産にも喜ばれそうだ。

鳥取城(鳥取県鳥取市)の御城印は、江戸時代に鳥取藩が御用紙とした因州和紙を使用し、揮毫は地元の書家による国内初の篆書体を採用。地元の作家による陶印もかっこいい。

「たかが1枚の紙切れに、これほどのストーリーが詰まっているとは!」と、驚くだろう。
そう、御城印はまるで城と地域の分身だ。城が2つとして同じもののない個性的なものであるように、御城印も独創的で唯一無二。
購入者は御城印を通して、地域の歴史や伝統、技術や美意識に出合える。
発行者は、城や地域の魅力やメッセージを、1枚の御城印にギュッと凝縮して全世界に届けることができる。

■「プレミアム御城印」購入に4時間待ちの行列も

付け加えるならば、城に貢献できることも魅力の1つだ。御城印の売り上げの一部は、城の整備や保存に充てられることが多い。
言い換えれば、御城印の購入を通じて、寄付金を納めることができる。
文化財保護の一翼を担え、設備向上やイベント事業の支援に役立て、城との距離を近づくのだから、ファン冥利に尽きる。

例えば郡上八幡城では、地震被害を受けた熊本城(熊本県熊本市)の復興支援として売り上げの一部を寄付しており、寄付金額は3年間で338万4500円に達したという。
今後は、独自のビジネスモデルを考え、いかにビジョンを示せるかが、御城印販売の成功の秘訣となりそうだ。

発行されている御城印を見ると、一般的には名の知れていない城も多い。これも、御城印の潜在力だ。
御城印は、すべての城において集客のツールになりうるのだ。交通の便が悪い、遺構があまり残っていない、知名度が低いなどのハンデキャップを払拭できる力が、御城印には秘められている。

近頃は、期間・数量限定の「プレミアム御城印」も増えている。
今年のゴールデンウィークには、改元記念の限定御城印が多く登場して話題になった。

例えば、上田城(長野県上田市)では、購入に4時間待ちの行列ができたという。
イベント限定の御城印も珍しくなく、昨年12月に約2万人を動員した「お城EXPO2018」では、会場限定御城印の整理券がわずか30分でなくなった。
来客者へのノベルティや集客のツールとしても、プレミアム御城印は大いに活用の余地がありそうだ。

さらに、これからは「全国各地の連携」がキーワードとなりそうだ。
例えば、八戸市や二戸市など7市町の教育委員会では、7城で御城印を販売。地域で連携することで、周辺の城や施設へも足を伸ばしてもらう狙いだ。
第一観光(福岡県福岡市)では、今年4月から御城印巡りのツアーが催行され、早くも第4弾まで申し込みを受け付け中という。

企業とコラボレートした企画も増えそうだ。高知県では、前述のアプリ「ニッポン城めぐり」とタイアップ、「土佐の城 御城印ラリー」を来年の2月2日まで、期間限定で開催している。

県内7か所(安芸城【安芸市立歴史民俗資料館】・岡豊城【高知県立歴史民俗資料館】・高知城・ 高知城歴史博物館・浦戸城【坂本龍馬記念館】・本山城【大原富枝文学館】・中村城【四万十市郷土博物館】)に設置されたQRコードを読み取り、GPSで位置情報を送信することでアプリ内のスタンプ帳を埋め、全スポットを制覇すると、土佐和紙を使用した限定デザインの「特製御城印セット」がもらえる。

アプリの特典も得られるとあって、6月27日のイベント開始からすでに500人超が制覇しているという。
今後の展開が楽しみな御城印。さまざまな仕掛けと工夫で、城や地域への興味が高まり、訪れるきっかけが増えることを期待したい。

 

引用元:東洋経済オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191117-00310949-toyo-bus_all

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